脳神経外科  氏家 弘 先生

脳神経外科  氏家(うじいえ) 弘 先生の職歴

1978年4月 東京女子医科大学 脳神経センタ- 脳神経外科 研修医
1984年1月 東京女子医科大学 脳神経センタ- 脳神経外科 助手
1989年12月 ミュンヘン工科大学 留学
1993年5月 ウエルーズ大学 留学
2000年10月 東京女子医科大学 脳神経センタ- 脳神経外科 講師
2004年11月 東京女子医科大学 脳神経センタ- 脳神経外科 助教授
2004年11月 理研ベンチャーメディカルイオンテクノロジー 代表取締役社長就任
2007年4月 東京女子医科大学 脳神経センタ- 脳神経外科 准教授
2009年4月 東京労災病院 脳神経外科 部長
2017年4月 ブルースカイ松井病院 脳神経外科 顧問

主な加入学会、評議員、編集委員

  • 脳神経外科学会  評議員、脳神経外科専門医
  • 脳卒中外科学会および脳卒中学会  評議員、脳卒中専門医
  • 脳神経外科コングレス、脳神経外科手術と機器学会、脳神経外科救急学会
  • バイオレオロジー学会  理事、編集委員レオロジー学会
  • Neurologia medico-chirurgica: Review board
  • Journal of Biorheology: Associate editor

自己紹介

1991年ミュンヘンから帰国。ほぼ2年間ミュンヘン工科大学流体力学科に留学しました。英語でなくドイツ語での日常、医学部でなく工学部での研究生活と、苦労の連続でしたが、この苦労が私を鍛え、私自身を一新してしまいました。アマからプロに転向した感じです。すべてを自分でするということ、すなわち自分のするべき目的、それをかなえる手段と意志、自己責任のすべてを、研究生活を通して身につけ、東京に戻りました。現在の私の手術成績や業績は、ほとんどがミュンヘンでの研究成果に基づいています。 1992年から1998年までの6年間は高倉公朋教授の下で、数多くの急性期くも膜下出血の治療をICU医長として行い、また川崎医科大学ME教室、東京理科大学、芝浦工科大学、理化学研究所と共同研究を始めました。このとき動物を用いた脳動脈瘤の研究とモデルを用いた流体力学実験を進めました。私の研究成果は、このころに行った研究と実験からなるものと言っても過言ではありません。1999年から2009年までの10年間は堀智勝教授の下で診療および研究活動に従事、堀先生は高倉先生同様学問に対して非常に寛容でした。この期間に巨大血栓化動脈瘤、巨大脳動静脈奇形、脳幹部海綿状血管腫といったそれまで手術が困難とされていた手術に数多く挑戦しました。また、理化学研究所の研究員となり、人工血管の開発に着手しました。理化学研究所では、数多くの論文を書いただけでなく、数々の特許を取得し、理研ベンチャーメディカルイオンテクノロジーも立ち上げました。2009年4月から東京労災病院に脳神経外科部長として赴任しました。東京労災病院に移動してからは、理化学研究所との共同研究だけでなく、東工大との共同研究にも着手し、それを基礎に大田区産業振興会と一緒に大田区での医工連携を推進しています。

この度、香川県松井病院に赴任することになり、地域医療の脳神経外科診療で患者さんを診察させて頂きます。
月曜日~木曜日は松井病院にいますのでお気軽に相談下さい。

私が最近10年間に執刀したいわゆる難しい手術の手術成績と私の行った研究を紹介します。
困難な手術について

1)脳動脈瘤手術の手術

2003年4月~2012年3月までの約10年間に脳動脈瘤手術359症例を施行、そのうち140症例がくも膜下出血症例で急性期であった。難易度の高い後方循環脳動脈瘤の手術は62症例あり、中でも脳底動脈分岐部動脈瘤は16症例あった。1例は聴神経腫瘍に合併した症例で術後に片麻痺を合併したが、他の15例はすべて手術による合併症は生じなかった。椎骨動脈血栓化巨大動脈瘤は、12例執刀したが、1例は術後転院後に窒息死した。今でもその患者さんとご家族が記憶に強く残っている。また、脳動脈瘤のトラッピングのために血行再建術を必要とした手術は、STA-MCAまたはOA-PICA 吻合術:10症例、橈骨動脈を用いたhigh flow bypass:8症例であり、血行再建術は全例で成功し、吻合した血管が閉塞した症例はなかった。

2)dolichoectatic basilar aneurysm

この症例で予後が最も不良なケースでは3年以内に死亡する確率が80%を越えると報告されている。通常のclipping等の外科的治療法が困難なため、脳底動脈閉塞+橈骨動脈を用いた深部血行再建術を4症例で旭川赤十字病院上山博康先生とともに行った。手術結果は血行再建術を行ったにもかかわらず、術後に脳幹部梗塞を合併し、手術成績は芳しくなく4例中1例のみが社会復帰が出来た。これらの手術方法と手術成績は脳卒中外科学会で報告し論文とした。東京労災病院に赴任してからは、この動脈瘤のバイパスによる手術を行っていない。

3)脳幹部海綿状血管腫(pontine cavernoma)の手術

脳幹部の手術は手術合併症が無視できず、敬遠されてきたが、堀教授の下で9症例、東京労災病院で6例のpontine cavernomaの摘出手術を行った。1例で術後2度にわたって再発し摘出術を合計3度行った結果、顔面神経麻痺、眼球運動障害、小脳症状を術後に生じ、顔面神経再建術および眼球固定術を必要とした。1例では術後に小脳症状が残存し、現在もリハビリを継続している。他の13症例は社会復帰した。

4)巨大脳動静脈奇形 huge AVM (Spetzler Grade V)の手術

もっとも術後合併症の確率が高い脳神経外科の手術に、巨大脳動静脈奇形の手術がある。現在までに6cm以上の大きさの脳動静脈奇形10例の摘出術を行った。1例で術中にNormal perfusion pressure breakthrough syndromeが生じAVM摘出後の出血が容易に止められず、術後に左片麻痺、左同名半盲を合併した。しかし19歳と若い年齢であったため脳の可塑性が強く社会復帰できた。前頭葉巨大AVMの2例では術後にocclusive hyperemia(AVM摘出に伴って深部drainerの閉塞が生じ脳出血を併発する病態)を生じ、術後3日目と7日目に脳内出血を合併し死亡した。術前、術後を通して神経学的に異常を認めずに回復した症例は4例(側頭葉AVM2例、後頭葉AVM2例)であった。
研究について
研究のテーマは脳血管障害と流体力学、および生体適合性医療材料(微小口径人工血管の開発)である。1990年代にミュンヘン工科大学工学部に留学し(1989-1991)、流体力学の基礎を学び、又引き続きウエールズ大学基礎循環器研究室に留学し(1993-1994)、EDRFと脳血流量について基礎的な実験をおこなった。帰国後は脳動脈瘤の発生、成長、破裂のメカニズムを流体力学的側面から研究解析し、論文発表を行った。この基礎実験は川崎医科大学医工学科、東京理科大学工学部吉本研、理化学研究所高分子研究室(2000年より共同研究員)と共同で行った。動脈瘤が成長するに従って動脈瘤内に流れの停滞、微小血栓形成が生じ、そしてそれに引き続く線溶系の亢進が動脈瘤壁の酵素的消化、そして動脈瘤破裂へと進むことを実験的に証明した。又動脈瘤のaspect ratio(縦横比)が動脈瘤内の血流とよく相関することを発見し、aspect ratio 1.6が破裂と未破裂動脈瘤の境界となることを発表した。これらの論文はNeurosurgeryに発表され、最も引用回数の多い論文である。また2000年より理化学研究所の共同研究員となり、イオンビームを照射することによりポリマー(ePTFE)の生体適合性が大きく改善することを発見し、特許を取得した。生体適合性を改善したion beam照射ePTFEを用いることによって直径2.5mmの微小人工血管の開発に成功し、2004年より理研ベンチャーメディカルイオンテクノロジーを立ち上げた。その後、生体適合性人工硬膜、脳動脈瘤ラッピング様生体適合性ePTFE、微小口径人工血管、covered stentの実験を続け、現在大田区で医工連携をすすめ、それらの製品化を目指している。
また2004年よりバイオレオロジー学会理事、2010年にはバイオレオロジー学会主催した。
主要論文10篇の要約

 

Sasaki K, Ujiie H, Higa T, Hori T, Shinya N, Uchida T: Rabbit aneurysm model mediated by the application of elastase. Neurol Med Chir (Tokyo) 44:467-474, 2004


頭蓋内脳動脈には外弾性板がなく、内弾性板のみによってその強度が支えられており、脳動脈瘤は内弾性板の欠損部位から発生する。この論文ではウサギ総頚動脈を露出し、顕微鏡下に外膜と外弾性板を摘出し、同部位にエラスターゼを塗布することによって内弾性板を溶かし、脳動脈瘤が発生することを証明した論文である。塗布するエラスターゼの濃度によって、脳動脈瘤様の膨瘤病変、そして破裂する動脈瘤まで作成することに成功した。

 

Ujiie H, Chator AT, Bakker LM, Griffith TM: Essential role of gap junctions in NO- and prostanoid-independent relaxations evoked by acetylcholine in rabbit intracerebral arteries. Stroke 34:544-550, 2003 (citation index: 27)


Wales大学留学中の実験研究成果を論文にしたものである。第3の血管拡張因子であるEDHF(endothelium-derived hyperpolarizing factor)は、まだ特定されていないが、EDHFが内皮細胞間のgap junctionを通過していくことを証明し、さらにGap junctionを通るEDHFがウサギ中大脳動脈末梢では、NOよりも優勢であることを報告した論文である。

 

Zhao W, Ujiie H, Tamano Y, Akimoto K, Hori T, Takakura K: Sudden death in a rat subarachnoid hemorrhage model. Neurol Med Chir (Tokyo). 39:735-743, 1999 (citation index: 9)


中国から留学した脳外科医、Zhao医師と行った実験である。Ratを用いて総頚動脈から大動脈へとカテーテルを挿入し、そのもう一方の断端を定位的にprechiasmal cisternに留置したのち、カテーテルを開放することによってくも膜下出血急性期モデルを作成した。脳圧、脳血流量を同時に測定し、3分間出血モデルでは急激な還流圧の上昇に伴って、呼吸停止そして45%が死にいたることを報告した。

 

Yamaguchi R, Ujiie H, Haida S, Nakazawa N, Hori T: Velocity profile and wall shear stress of saccular aneurysms at the anterior communicating artery Heart Vessels 23:60-66, 2008


アクリルで作成した前交通動脈モデルを作成して、微粒子を流し流れの可視化を行った。微粒子の流線をCCDカメラで撮影し速度勾配を求めて壁せん断応力を計算した。動脈瘤が大きくなるにしたがって瘤内に明確な渦流れが生じ、ドーム側では壁せん断応力はきわめて低くいことを報告した。とくに動脈瘤aspect ratio(縦横比)が2.0のときには、拡張期に血栓形成が起きる可能性を示唆した。

 

Ujiie H, Sato K, Onda H, Oikawa A, Kagawa M, Takakura K, Kobayashi N: Clinical analysis of incidentally discovered unruptured aneurysms. Stroke 24:1850-1856, 1993 (citation index: 46)


東京女子医科大学脳神経外科に1980-1989年の間に入院して血管障害以外の疾患で脳血管撮影を行った4892名を分析し、偶然に脳動脈瘤の発見される率を示した。偶然に脳動脈瘤が発見される割合は2.7%であり、前交通動脈瘤の偶然に発見される頻度は低いので破裂しやすいのではないかと考察した。この臨床研究はMRI/Aが一般的になる前に行われた大規模統計であり、よく引用される論文である。

 

Ujiie H, Tachibana H, Hiramatsu O, Hazel AL, Matsumoto T, Ogasawara Y, Nakajima H, Hori T, Takakura K, Kajiya F: Effects of size and shape (aspect ratio) on the hemodynamics of saccular aneurysms: a possible index for surgical treatment of intracranial aneurysms. Neurosurgery 45:119-130, 1999 (citation index: 97)


最も引用件数の高い論文で、川崎医科大学医工学科との共同研究の成果である。ウサギ腹部大動脈分岐部にいろいろな形の静脈を縫い付けて、動脈瘤を作成した。20-MHz, 80-channel, Doppler ultrasound velocimeterを用いて動脈瘤内血流動態を測定し、動脈瘤aspect ratio(縦横比)1.6以上になると流速は落ち、blebではほとんど血流が停滞することを報告した。

 

Ujiie H, Tamano Y, Sasaki K, Hori T: Is the aspect ratio a reliable index for predicting the rupture of a saccular aneurysm. Neurosurgery 48:495-503, 2001 (citation index: 45)


1993-1998年の間に治療した破裂脳動脈瘤245例と未破裂脳動脈瘤122例の血管撮影から、動脈瘤の大きさとaspect ratio(AR)を計算した。動物実験で予測したとおり破裂脳動脈瘤と未破裂脳動脈瘤のARは1.6が境界となっていた。AR1.6以上の未破裂脳動脈瘤はたとえ小さくても破れる可能性が高いと報告した。この論文の追跡調査がUSAおよびUKから発表され、同様の結果が報告された。

 

氏家(うじいえ)弘:脳虚血の可逆性とdynamic CT. 東京女子医科大学雑誌 12:283-291, 1987


学位論文である。発症後48時間以内にdynamic CTを行うことができた虚血性脳血管障害68例を分析し、dynamic CTで得られるparameterの中でMTT(mean transit time)よりPH(peak height)が梗塞巣と相関していることを示し、回復の可能性のある不完全脳梗塞はdemarcation zone infarction(白質半卵円部梗塞)に多いことも示した。

 

氏家(うじいえ)弘、比嘉隆、堀智勝:Dolichoectatic basilar aneurysmの自然予後および現在の治療状況 -アンケート調査の分析- 脳卒中の外科 32:338-345, 2004


Dolichoectatic basilar aneurysm(脳底動脈全体が巨大紡錘状動脈瘤隣血栓化を伴っている)の自然予後の全国調査をアンケート方式で行った結果である。Dolichoectatic basilar aneurysmの自然予後はきわめて不良で、発症後3年以内に70%が死亡し、残り20%も寝たきりの状態となっていた。この結果にもとづき、外科的治療をその後計画することとなった。

 

氏家(うじいえ)弘、比嘉隆、加藤宏一、山口浩司、篠原千恵、糟谷英俊、堀智勝、高橋範義、鈴木嘉昭:Ion beam照射ePTFEを用いた脳動脈瘤のwrap-clipping. 脳卒中の外科 35:24-29, 2007


理化学研究所とともに開発したion beam照射ePTFE(Gore-Tex)は、普通のGore-Texと違いfibrin glueによって組織に強く付着し、細胞も接着するものである。このion beam照射ePTFEを用いて、倫理委員会で承諾を受けた後東京女子医大で臨床応用し、素晴らしい成果を得たことを報告した論文である。
特許取得
特願2005-048199 生体接触部分を改質したカテーテル
出願人:独立行政法人理化学研究所
発明者:小林知洋、鈴木嘉昭、宮里朝矩、氏家(うじいえ) 弘
出願日:2005.02.24
特開2005-34256 血管修復材料
出願人:独立行政法人理化学研究所、氏家(うじいえ) 弘
発明者:氏家(うじいえ) 弘、鈴木嘉昭、岩木正哉
出願日:2003.07.17
特開2003-207850 動脈瘤治療用材料
出願人:独立行政法人理化学研究所、化学および血清療法研究所、氏家(うじいえ) 弘
発明者:氏家(うじいえ) 弘、鈴木嘉昭、岩木正哉、内田隆徳
出願日:2003.08.19
特開2004-89361 生体組織接着剤と親和性を有する生体修復材料
出願人:独立行政法人理化学研究所
発明者:鈴木嘉昭、氏家(うじいえ) 弘、高橋範吉、岩木正哉
出願日:2002.08.30