いろいろな検査を受けても異常が見当たらないのに、体調が不良な方はたくさんおられます。漢方の特徴の一つに、これら現代の一般的医療体制では十分に対応できないような落とし穴を漢方でもって埋めることができます。医師から「様子を見ましょう」、「それは気のせいでしょう」と言われたらぜひ漢方外来を訪れてください。二つ目は、症状が同じでも一人一人にそれぞれ違う漢方薬が処方されます。漢方はまさにオーダーメイド医療なのです。現代医学の一歩先を進んでいます。

「がん」と「漢方」

 我々の体は常にいろいろなリスク要因によって遺伝子に異常(変異)が起こっています。遺伝子異常を引き起こすと思われる生活要因として、よく知られているものには喫煙や飲酒等があります。これらに遺伝的危険因子が組み合わさった時に多くのDNAに損傷が起こり、その結果「肺がん」や「食道がん」になる頻度が高くなります。このようにがんは遺伝子異常によって生ずる病気の一つです。
 他方これらがん細胞を攻撃し、排除する仕事のできるリンパ球が体内で存在します。体の免疫力が弱っている状態ではがん細胞は生き残り増殖します。すなわち弱った免疫機能では対処できなくなります。
 だからがんは早期発見、早期治療が必要となります。治療法は主に「外科治療」、「放射線治療」に「化学療法」でした。最近世界的に注目されてきたのが、第4番目の治療法としての「免疫療法」です。これはがん患者さんの弱った免疫システムに直接働きかけて、リンパ球を活性化させ、がん細胞を殺させるのです。従来の「免疫治療」と異なるところは、がん患者にヒットした薬を使用することです。そのためには求められた膨大な遺伝子情報の中から、人工知能(AI)に個々のがん患者にヒットした(個別化)薬を見つけ出させるのです。AIの開発、免疫治療など現在日本のがん医療は世界的レベルから取り残されています。どの病院でもこの最新治療を受けるには今しばらく時間がかかりそうです。

「がん治療に次の一手:それは漢方」

 幸いにも、我々の身近に人に優しい「免疫治療」が埋もれています。それは数千年の時間を経て生き残ってきた人類の叡智である「漢方」です。近年「中医免疫治療」が見直され、多くのエビデンスも公開されてきています。広く知り渡っていないのは、この「中医免疫治療」を使いこなすには多少の知識と経験が必要となります。がん治療の経験が豊富で、その上に「中医免疫治療」の経験を持つ医者なら「漢方の奇蹟」を引き出すことができます。
 しかも「免疫治療」はどの治療よりも先駆けて開始するのが肝要となります。そうすればどの治療も効果が倍増します。
 がん患者さん特有の不定愁訴やがん治療に伴う様々な副作用を解決できるのも「漢方」です。更に「漢方」を続けていくと免疫バランスが好転して延命効果も期待出来ます。
 がんと診断され不安で悩んでいる患者さん、がん治療の開始と共にその副作用で苦しんでいる患者さん、転移・再発を毎日心配しながら生活しておられる患者さん、仕方なくサプリメントに高額のお金を投資している患者さんは多くおられると思います。ぜひ一度ご相談に訪れてください。患者さんの偏見をなくし、正しい知識を培っていただけます。
 どなたでも受診することができます。紹介は必要ではありませんが、初診時にはお話を伺うのに30分以上の時間を必要とするため、あらかじめ電話での予約申し込みをいただけば待ち時間が少なくなります。

東洋医学研究所所長 竹川 佳宏

「免疫を促進させる漢方薬」

 一部の漢方薬には西洋薬には無い素晴らしい効果があり、体内の免疫機能を高めて、免疫反応を有利にすることによって、多くの免疫疾患やがんを抑制させることが期待できます。「漢方」に対する科学的な思考があれば十分に試みる価値のある治療法であると思います。代表的な漢方としては「四君子湯」「補中益気湯」「四物湯」「六味地黄丸」等々、どれがあなたに最適かは、専門医が漢方独特の「証」で決定します。
 ここで「補中益気湯」の構成を紹介します。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

 体力虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすいものの、虚弱体質、疲労倦怠、食欲不振、病後・術後の衰弱などに適用されます。消化吸収機能を活発にし、全身の栄養状態を改善する処方です。人参と黄耆の組み合わせが、本処方の中心的な働きを担っているといわれています。人参、白朮、陳皮、甘草は健胃、強壮作用が期待され、黄耆、当帰は皮膚の栄養を高め、寝汗などの症状を改善するといわれています。柴胡、升麻は解熱作用が期待され、生姜、大棗は諸薬を調和し薬効を強めるはたらきがあるとされます。同じく疲労倦怠の症状に用いる「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」と比較して、血を補う作用は弱いものの、含まれる柴胡や升麻が体内の気を押し上げて巡りをよくする作用を持つとされます。

植物のご紹介


チョウセンニンジン

Panax ginseng C. A. Mey. ウコギ科(Araliaceae)
生薬名:ニンジン(人参)・コウジン(紅参) 薬用部位:根
朝鮮半島、中国東北部に分布する多年草で、 日本では長野県、福島県、島根県などで栽培されています。薬用部位の根は肥大して分岐し、5~6年栽培したものを用います。不老長寿の薬として古来より珍重され、将軍・徳川吉宗の時代には栽培が奨励されたという歴史があります。生薬「ニンジン」は本種の細根を除いた根又はこれを軽く湯通ししたもの、生薬「コウジン」は本種の根を蒸したもので、いずれもギンセノシド(サポニン)などを含み、補精、強壮、鎮静、抗糖尿病などの作用があります。漢方薬に配合する場合は、通常「ニンジン」を用い、一般用漢方製剤294処方のうち、人参湯(にんじんとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)など73処方に配合されています。


ホソバオケラ

Atractylodes lancea (Thunb.) DC. キク科(Asteraceae)
(局方)Atractylodes lancea DC. キク科(Compositae)
生薬名:ソウジュツ(蒼朮)  薬用部位:根茎
中国に分布する多年草で、山裾の明るい低木林、草地などに自生します。草丈40~60cmになり、9~10月に開花します。葉は硬く、縁には刺状の刻みがあり、同属のオケラと比べて細長いことからホソバオケラの名前が付いたと考えられます。生薬「ソウジュツ」は本種の根茎で、アトラクチロジンなどの成分を含み、健胃、整腸、利尿などの作用があります。一般漢方製剤294処方のうち、平胃散(へいいさん)、薏苡仁湯(よくいにんとう)など73処方に配合されています。


キバナオウギ

Astragalus mongholicus Bunge var. dahuricus (DC.) Podlech マメ科(Fabaceae)
(局方)Astragalus membranaceus Bunge マメ科(Leguminosae)
生薬名:オウギ(黄耆)  薬用部位:根
日本の北海道から本州中部、朝鮮半島、中国東北部、シベリア東部に分布する多年草で、草丈50~80cmになります。夏の暑さに弱い性質を持つので、京都などで栽培すると高温多湿で急に枯れることが多く、暖地では比較的栽培の難しい種といえます。生薬「オウギ」は本種の根で、ホルモノネチン(フラボノイド)などの成分を含み、利尿、血圧降下などの作用があります。一般漢方製剤294処方のうち、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)など26処方に配合されています。


トウキ

Angelica acutiloba (Siebold et Zucc.) Kitag. セリ科(Apiaceae)
(局方)Angelica acutiloba. Kitagawa セリ科(Umbelliferae)
生薬名:トウキ(当帰)  薬用部位:根
日本の本州中部地方以北に産する多年草で、草丈40~80cmになります。6~7月にセリ科植物に多く見られる複散形花序の花を咲かせます。生薬「トウキ」は本種の根を通例、湯通ししてから乾燥させたもので、リグスチリド(精油)などを含み、鎮静、鎮痛、補血、強壮などの作用があります。一般用漢方製剤294処方のうち、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、紫雲膏(しうんこう)など78処方に配合されています。


ウンシュウミカン

Citrus unshiu (Swingle) Marcow. ミカン科(Rutaceae)
(局方)Citrus unshiu Markovich
生薬名:チンピ(陳皮)  薬用部位:果皮
本種の名は、中国浙江省の温州にちなんで命名されましたが、温州原産ではなく日本原産とされる常緑低木です。本種の親は長年不明でしたが、近年のDNA鑑定の結果、種子親がキシュウミカン(C. kinokuni Hort. ex Tanaka)、花粉親がクネンボ(C. nobilis Lour.)であることが推定されました。
生薬「チンピ」は本種の成熟した果皮で、ヘスペリジン(フラボノイド)などの成分を含み、芳香・苦味健胃、鎮咳などの作用があります。一般用漢方製剤294処方のうち、香蘇散(こうそさん)、平胃散(へいいさん)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)など48処方に配合されています。


ナツメ

Ziziphus jujuba Mill. クロウメモドキ科(Rhamnaceae) 
生薬名:大棗(タイソウ)  薬用部位:果実
ヨーロッパ南部、アジア西南部に分布する落葉小高木で、日本には中国から渡来し、各地で広く栽培されるようになりました。特に新梢の節に鋭いとげをつけ、剪定などをする時に、指先や手の甲に刺さって怪我をします。和名のナツメ(夏芽)は、その芽立ちがおそく、初夏に入ってようやく芽を出す特性を指しています。ジジフスサポニンなどの成分を含み、抗補体作用が報告されています。一般用漢方製剤263処方には、副作用の緩和を目的に、葛根湯(かっこんとう)、甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)、小柴胡湯(しょうさいことう)など84処方に配合されています。


ミシマサイコ

Bupleurum stenophyllum (Nakai) Kitag. セリ科(Apiaceae)
(局方)Bupleurum falcatum Linn. セリ科(Umbelliferae)
生薬名:サイコ(柴胡)  薬用部位:根
日本の本州中部地方以西に分布する多年草です。草丈70~120cmになり、8~10月に花を咲かせます。環境省レッドリスト2017では絶滅危惧種Ⅱ類 (VU) に指定されています。生薬「サイコ」は本種の根で、サイコサポニンなどの成分を含み、消炎、解熱などの作用があります。胸から脇にかけて膨満し、圧迫感があって、苦しい状態の胸脇苦満(きょうきょうくまん)の改善にも柴胡剤が用いられます。一般用漢方製剤294処方のうち、小柴胡湯(しょうさいことう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)など43処方に配合されています。


ウラルカンゾウ

Glycyrrhiza uralensis Fisch. ex DC. マメ科(Fabaceae)
(局方) Glycyrrhiza uralensis Fischer マメ科(Leguminosae)
生薬名:カンゾウ(甘草)  薬用部位:根・ストロン
中国からヨーロッパ南部に分布する多年草で、根を垂直方向に、ストロンを水平方向にそれぞれ伸ばします。生薬「カンゾウ」は本種の根及びストロンで、甘味成分のグリチルリチン(トリテルペン配糖体)などを含み、去痰、鎮咳、消化性潰瘍薬などの作用があります。一般用漢方製剤294処方のうち、葛根湯(かっこんとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)など最も多い212処方に配合されています。さらに、甘味剤として市販の味噌・醤油などにも多用されていますので、中国、モンゴル、アフガニスタンなどから年間数千トン以上が輸入されています。


ショウガ

Zingiber officinale (Willd.) Roscoeショウガ科(Zingiberaceae)
(局方)Zingiber officinale Roscoe
生薬名:カンキョウ(乾姜)・ショウキョウ(生姜)  薬用部位:根茎 
熱帯アジアに分布する多年草で、草丈30~50cmになります。土の中で横に多肉質の根茎を伸長します。生薬「カンキョウ」は本種の根茎を湯通し又は蒸したもので、ジンゲロールなどの成分を含み、解熱、鎮痛、鎮咳、抗炎症などの作用があります。一般用漢方製剤294処方のうち、大建中湯(だいけんちゅうとう)、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)など114処方に配合されています。生薬「ショウキョウ」は本種の根茎で、ジンギベリン(精油)などの成分を含み、健胃などの作用があります。一般用漢方製剤294処方のうち、葛根湯(かっこんとう)、香蘇散(こうそさん)など31処方に配合されています。日本でいう「ショウキョウ(生姜)」は中国の「カンキョウ(乾姜)」を指すので注意が必要です。


サラシナショウマ

Cimicifuga simplex (DC.) Wormsk. ex Turcz. キンポウゲ科(Ranunculaceae) 
(局方)Cimicifuga simplex wormskjord
生薬名:ショウマ(升麻)  薬用部位:根茎
日本、中国北部に分布する大型多年生草本で、草丈150cmに達します。冷涼な気候を好む植物のため、わが国では標高1000m以上の高原にみられます。平地で栽培するときには遮光を必要とします。和名のサラシナは「晒菜」の意味で、若葉を摘んで水に晒して食べたためとされています。生薬「ショウマ」は本種の根茎で、シミゲノール(トリテルペノイド)などの成分を含み、解熱、浮腫抑制などの作用があります。一般用漢方製剤294処方のうち、乙字湯(おつじとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)など13処方に配合されています。